
子供の頃、お前は橋の下で拾ってきたのだと親から言われ、傷ついたという経験を持つ人は意外にも多い。
この奇妙な言い回しは昔話の桃太郎や記紀神話のヒルコなど、〈川から流れ着いた子〉というモチーフと深く連動している。日本には古くから、子どもの命を守るために“わざと捨てるふりをする”という呪術的な風習があった。
柳田國男の『遠野物語』によれば、虚弱な子は一度便所の下をくぐらせ、道違いの場所に“捨てて”から、あらかじめ決められた拾い手に拾わせることで、魔物の目から子を隠そうとしたという。また、神仏から「別の名前」を授かる取子の儀礼は、弱い子に新しい縁と力を与えるためのもので、生まれた子を“神の子”として再構成する呪術的な仕掛けでもあった。
こうした風習は遠野に限らず全国的で、七歳までを“神のうち”とした古い世界観ともつながっている。子どもが社会的に“一人前”と認められる七五三の儀礼にも、実はこの取子文化の痕跡が残る。生まれたばかりの子を守るために、あえて逆さまの演技を行う――日本の民間信仰には、そうした独特の保護構造が重層している。
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